先日、北海道のユーチューバーが札幌市内でのヒグマとの遭遇を上げたYouTube動画が物議を醸しています。
動画の内容は、視聴者からの質問へのアンサー動画を撮影していたものですが、ヒグマの出没が相次ぐ札幌市南区中ノ沢地区の林道から少し入った山中で行われています。
アベマプライムでも、有名ユーチューバーのラファエル氏を交えて本人から詳しく話を聞いている動画が上がっていますが、なぜこれほどまでこの動画が問題視されているかについて詳しく解説していきます。
クマ出没が相次ぐ山中でピザを食べながら動画を撮影
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北海道札幌市南区ではここ数年ヒグマの出没が相次ぎ、地域住民が緊張状態にある中、あるユーチューバーが起こした出来事が批判の対象とされています。彼等は山中でピザを食べていたところにヒグマの親子が現れ、食べていたピザを置き去りにしたまま車に避難しました。
動画に対して批判が集まる理由
この動画に対して批判が集まる理由はいくつかありますが、まず、山中でピザを食べていたことがヒグマを引き寄せた可能性がある点です。そして、もっと重要な問題は、彼等がピザを放置してヒグマがそれを食べてしまったことです。
ヒグマが一度でも人間の食べ物を口にした場合、学習能力の高いヒグマは度々人間の近くに現れて餌を探す傾向が強まります。この付近には民家があり、この動画投稿者の行動は今後近隣で人身事故が発生する可能性を高めてしまったといえます。
そして、この件について反省の色が全く見られなかったことでも批判の対象となっています。
ヒグマとの遭遇後の動画投稿者が取った行動
ヒグマの親子が去った後に山中に残した荷物などは全て片付けたようですが、警察や行政への通報など一切行わずにその場を去ったようです。
人が入れないような山の奥深くであれば人への被害の可能性は限りなく低いことが予想されますが、今回のケースは住宅地からそれほど離れていない場所だったため、その場にいた理由はどうであれ、通報すべき事案だったはずです。
動画投稿者の言い分には矛盾点が多い
ヒグマが危険な動物だということは周知の事実である上、ヒグマの出没情報は札幌市でも詳しく公開しています。
現に、この近辺では3月から4月にかけて複数回のヒグマの目撃情報があり、この動画が撮影された前日の5月4日にもヒグマの姿が確認されています。
動画投稿者がこの近辺でヒグマの出没が相次いでいたことを知っていたかはわかりませんが、この動画を撮影するためにわざわざ土地の所有者と連絡を取り許可を得ていたそうです。
また、動画投稿者は、アベマプライムでヒグマとの遭遇は想定外だったと弁明していますが、過去にもヒグマを探す企画として動画投稿を行っていたことから、今回の撮影でもある程度ヒグマの出没を想定していた可能性は否定できません。
ヒグマに遭遇した時の対処について
危険な距離でヒグマに遭遇した場合、先に身の安全を確保するのが最優先ですから、追い払うなどの行動ができないにしても、自分たちの意思で山中に入った時点で通報し専門機関に然るべき措置を取ってもらうなどの責任が発生します。
ヒグマが出没した際の行政の対応
ヒグマが出没した際の行政の対応は様々で、その時々の状況やヒグマの行動によって対処が決まります。
- 注意喚起
- 捕獲・駆除
- 放置
注意喚起
住宅地付近の狭い範囲で同個体の出没頻度が高い場合は、近隣住民への注意喚起と出没地帯への一時的な立ち入り規制、出没個体への追い払いなどをして出没頻度が高くならないような対処を行います。
捕獲・駆除
追い払い効果がなく近隣住民への被害が予想される場合や、自ら人間へ近づいてくるような異常な個体と判断された場合は、捕獲・駆除の対象となります。
現状維持
住宅地以外の山中や、道路の横断、農業地などで熊を見かけたと通報があった際、確認作業は行いますが、出没した個体の行動に特に異常がなく事故に繋がる可能性が低いと判断されれば現状のままとされるケースが多いです。
近年のYouTubeの収益減少と動画内容の過激化について
最近、YouTubeでの収益が減少していると言われていますが、その理由は単純です。
YouTubeはGoogleが提供する動画共有プラットフォームであり、慈善事業ではありません。広告主が広告料金を支払って広告を配信しており、その料金を基にYouTubeが運営されていて、一定の条件を満たしたクリエイターにはその広告料金の一部が報酬として支払われるシステムが存在します。
この動画投稿者も広告収入が減少していると述べていますが、収益が減少した具体的な理由を理解していないことから、再生数欲しさに今回のようなインパクトのある動画の投稿を行ったものと予想できます。
実際に、Googleが要求する動画の内容は、視聴者にとって有益なものであることが大前提で、それに応えられない動画は広告主にとって利益が生まれないため、再生回数を増やすためにリスクを冒しても広告収入が減少するのは当然です。反対に、Googleが要求する視聴者にとって有益な動画を投稿するクリエイターに対しては収益が上がっているそうです。
例えば、山中での出来事が注目を集め再生回数が増えたとしても、動画を視聴する人々の中に広告を利用する人がいなければ、再生回数が増えてもGoogleや広告主にとっては価値のない動画となります。
今回のケースでは、危険を冒して行われた行為であるとともに、間接的にでも近隣住民を危険にさらしてしまったと予想されるため、高く評価される動画とは考えにくいでしょう。
北海道のヒグマの生息数の増加問題
最近では、ヒグマの生息数の増加により緊張感が高まっていることが広く知られている北海道ですが、1990年を境に当時の北海道知事が春熊の駆除を廃止しヒグマを取り巻く状況が大きく変わったことで、ヒグマの生息数が増加していると指摘する専門家も多くいます。
特に札幌市を含む道央圏(恵庭から積丹まで)では、特に大きな問題となっていて、かつては絶滅の危機に瀕していたヒグマの個体数は、春熊の駆除が廃止されてからは回復傾向にあり、1990年の推定300頭から2012年には推定800頭にまで増加しました。
現に札幌市ではここ10年ほどでヒグマの出没が常態化している地域が急増し、実際にヒグマによる人身事故も発生しています。
ヒグマが街に出現する主な原因として、無駄な都市開発や山での食物減少など、人間の関与が挙げられる意見も多いです。
しかし、多くの人々はヒグマにとって仲間であるヒグマ自身が最大の天敵であり、若い熊たちが親から離れて間もなく自分よりも強いヒグマに襲われることがあることを理解していないことも多く、春熊駆除が廃止されて以降ヒグマの生息数が順調に回復したことから、ヒグマの過密化が進んでいることで彼らは故郷の山にとどまることができず、広範囲な移動を強いられていることから、市街地に迷い込んでしまうヒグマが現れると意見する専門家もいます。
ヒグマの生息域で危険な行動をしたユーチューバーへの渓流アングラーとしての意見
当ブログでは、北海道に生息するヒグマと人間の距離感に関する問題について、過去に何度か取り上げてきました。
北海道で渓流ルアーフィッシングを楽しんでいる自分の意見としては、長時間に渡る釣行時や、ヒグマの生息地以外での釣りの際はおやつや菓子パンなどを持って遡行する場合もありますが、山中を流れる渓流域では匂いや食べかすを残す可能性があるため、基本的に食事は事前に済ませ飲み物以外を持って川には入りません。
熊除けの鈴や撃退スプレーなども持たず、わざわざクマの生息域まで行って栄養価の高い人間の食べ物を広げる無知さに呆れるというか、怒りさえ覚えてしまう内容でした。
確かに、事故にならなくて良かったとは思いますが、この動画に対する肯定的な意見も多かったことにも驚きました。
また、以前からエキノコックスを媒介するキタキツネとの不必要な接近や、ヒグマに遭遇するための企画動画を上げていたこともあり、今回の件もより数字が取れる過激な内容の動画を撮影するために、ある程度計画性を持ってヒグマと遭遇する可能性の高い場所を選んで撮影を行っていたことが予想できます。
本来であれば野生動物が不必要な距離まで人間に接近してきた場合、威嚇による追い払いが正しい対処であり、野生動物が人慣れしてしまうことによる弊害が起きない愛情を持った最大の配慮でもあります。
この動画投稿者は、動画に対してヒグマに遭遇するといった想定はしていなかったと弁明していますが、ピザを食べさせてしまったことはどうしようもない事実で、近隣住民への危険も含めて、今後この熊の親子がさらに大胆な行動を取るようになると確実に駆除の対象となってしまいます。
確かに、共存という綺麗事では済まされないほどにヒグマと人間の距離が近くなってきている昨今の北海道ですが、だからこそ道民としてヒグマを含む野生動物に対してある程度の知識を持ち合わせている必要があるのではないでしょうか。
ユーチューバーは動画を配信するのが仕事ですから、それに対して何の否定もしません。むしろ、個人の生き方の自由度が広がった現代において、自分が好きなことや得意なことで生きていくことができる若者に対して尊敬の気持ちすらあります。
しかし、他人に迷惑またはその可能性がある行動を起こしておいて、個人の自由を主張するのはちょっと違うのではないかと思います。はき違えた自由よりもプロ意識を持ってほしいですね。
今回の騒動を起こした無知で無責任なユーチューバーの行動に対して、多くの人から否定的な意見が出ていますが、今後このユーチューバーが自身が起こした騒動を振り返り、自然に対ししっかりと敬意を払い、道民として野生動物との正しい付き合い方を発信してくれることを切に願います。
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