渓流釣りには必ず必要とされる熊対策。
昨今の北海道は、ヒグマの生息数の爆発的増加の影響で、人間との異常接近の機会が増えてることが問題視されています。
当サイトでも渓流釣りに必要な装備の面では、熊対策を第一に発信していて、いざという時のための最後の手段として熊撃退スプレーの所持を推奨していますが、今シーズンは特に購入する方が多い傾向にあり、ヒグマを含む安全対策に対して意識の高いアングラーが増えている印象です。
そこで、今回は、熊撃退スプレーが必要な場面や正しい使い方などをいくつか紹介します。
クマ撃退スプレーは唐辛子などの辛み成分中心の非殺傷型護身用武器
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クマ撃退スプレーは唐辛子エキスを主成分とした、護身用の武器です。
使い方は単純で、誤射防止の安全ロックピンを外しトリガーを押してクマの粘膜(目・口・鼻)に向けて噴射します。
しかし、クマとの距離が遠い場合や、風が強い場合は効果を発揮できないことがあるので注意が必要です。
クマ撃退スプレーに予防効果はない(適切な予防法)
クマ除けスプレーと表記しているサイトなどがあるので中には勘違いしている人がいますが、クマ撃退スプレーはクマの嫌いな匂いなどでクマを遠ざけるといった効果はありません。
クマ撃退スプレーは、クマに襲われた際に目や口、鼻などの粘膜に向けて噴射してクマが刺激や傷みで苦しんでいるうちに退避するための最終手段で使用する撃退用の武器です。
ですから、予防目的でクマに遭遇しないように噴射したところで全く意味がないどころか、いざという時に中身が減っていては効果を発揮することができないことがあるので注意が必要です。
本来はクマに遭遇しないことが望ましいですが、自身の身を守る武器として携帯しておくことを強くお勧めします。
クマに遭遇しない方法はいくつかありますが、基本は音が出るものを利用します。ここでは手軽に入手できるものを中心にいくつか紹介します。
クマ除け鈴・クマ除けのベル
バッグやフィッシングベストなどにぶら下げておくだけで歩く度に勝手に音が出るので、登山や渓流釣り、林業の方もよく使用している最も手軽に遭遇を予防するアイテムの一つです。
クマ鈴やベルは効果がないという意見も一部聞かれるように、お互いの存在を認識できるほどの近距離で遭遇してしまった場合などは、いくら鈴やベルの音を鳴らしてもほとんど効果はありません。
ただ、鈴やベルの音を鳴らすことで前もって人間の存在を知らせてクマに警戒させることはできるので、遭遇の頻度をかなり軽減することができます。ですからクマ除けの鈴やベルは必ず持ち歩くようにしましょう。
また、渓流では川の音や鬱蒼とした森による防音効果によって、鈴やベルの音がかき消されることがあるので、遭遇の可能性のある場所では音質の違うものを複数持ち歩くと良いでしょう。
多くの釣り人が好んで使用しているカウベルタイプは、あまり遠くまで音が響かないため、水の音が大きな川ではそれほど効果が期待できない場合があります。
鈴タイプのものは少しの揺れでも音が出るので、釣りに夢中になってじっとしている時でもよく音を出してくれますが、音が良く響くものや数が多くついた物は少し価格が高めです。
釣り下げタイプのベルは高音で良く響きますが、不必要な場所で音を出さないようにできるノック式の消音タイプのものは壊れやすく、使っていくうちに音が出なくなることがあります。
ホイッスルや笛
ホイッスルも効果としてはクマ鈴やベルと同じで、クマに向かってホイッスルを吹いても逃げていくことはあまりありません。先に人間の存在を知らせてクマとの遭遇を回避するためのものですから、見通しの悪い場所や入渓時などは頻繁に音を鳴らすようにしましょう。
ホイッスルを使用する場合は、短く連続で三回鳴らすのはSOSのサインなので、使用時は誤解されないよう注意しましょう。
爆竹などの音が出る花火
クマ鈴やホイッスルと同様に音による予防方法ですが、爆竹は威嚇の効果もあるので、遭遇を防ぐには効果が高い方法の一つです。
実際にヒグマに後を付けられた人が爆竹を鳴らしたら、音に驚いて慌てて逃げて行ったという事例もあるので、源流域や山岳渓流などの山奥深くに入渓する場合は持っておくと安心です。
また、熊脅しという鉄砲型の筒の中に爆竹を入れて鳴らすアイテムがありますが、一方向に向けて音を響かせる効果が高いので、爆竹の束に点火して連続で音を鳴らす必要がなく一本でも効果は絶大です。熊脅し自体はあまり販売されていませんが、占冠村の道の駅で見かけたことはあります。
熊脅しは簡単に自作できますしメルカリなどのフリマサイトなどでも入手できます。
また、拍手をするように手を叩いて音を出すのも似た効果があります。
声を出す
人間の声は予防効果が高いと言われており、特に男性の声が効果的と言う人もいます。
普段はあまり山奥深くのヒグマの密度が濃い源流域などには行きませんが、初入渓の場所では時々大きな声を上げながら遡行しています。
実際のところはわかりませんが、これでヒグマと遭遇したことはないので、一定の効果はあると思っています。
単独行動を避ける
実は複数人でいることがクマの遭遇を回避するための最も効果の高い方法で、グループで行動していた際に遭遇した事例では、過去30年間ヒグマによる死亡事故は0件で、死亡事故はすべて単独行動によるものです。
クマ撃退スプレーの使い方
クマ撃退スプレーは上手くクマの顔に命中すればかなり高い効果が期待でき、90%以上の確率でヒグマ攻撃を静止できると言われています。直近では札幌市で巣穴を調査していた2人の男性が冬眠穴から飛び出してきたヒグマに使用して助かったという事例があります。
クマ撃退スプレーの射程距離は最大5m~10程度で、地形や風向きなどの環境によって撃退効果の条件は変化します。
よって、確実にクマの動きを止めるには5m以内で噴射するることが望ましく、噴射するタイミングを間違うと効果が期待できないということになるので注意が必要です。
クマの動きを良く見てクマ撃退スプレーの噴射のタイミングを計る
クマの攻撃はまず威嚇行動から始まりますが、ブラフチャージといって、勢いよく人間の数メートル近くまで突進しては急激に反転して遠ざかるという行動を繰り返すことがあります。
この時点でクマは本気モードに入っているので、非常に危険な状態と言えます。速やかにクマ撃退スプレーの安全ロックを解除してクマの攻撃に備えます。
クマが5m以内に入ってきたら迷わず噴射
利き手でクマ撃退スプレーのトリガー部分を持ち、もう片方の手はスプレーの下部を持って支えます。
トリガーを押すと勢いよく中の成分が飛び出すので、クマの顔をめがけて噴射します。
噴射時間は約7秒ほどなので、クマから目を離さず確実に命中させます。うまく命中してもがき苦しんでいるようならすぐに噴射を止めてその場から退避します。
風向きや地形に注意
向かい風の中でクマ撃退スプレーを噴射すると、スプレーが自分に掛かってしまうことがあります。
特に眼に入ると激しい痛みで眼を開けていられなくなるので、樹木や岩などの障害物を盾にして何とか風上に回るようにしましょう。
また、自分の位置よりも高い場所にクマがいる場合も、スプレーの成分が自分に掛かることがあるので注意が必要です。
風のない時でもスプレーの使用直後は周辺に刺激成分が残るので、速やかにその場から離れるようにしましょう。
クマ撃退スプレーはヒグマ用のものを
北海道は体長2m体重が200㎏を超えるヒグマが生息しているため、クマ撃退スプレーは必ずフロンティアーズマンやカウンターアソールトなどのヒグマ対応のものを使用します。
一本10000~20000円と、中々のお値段ですが、消費期限は約5年で年間にすると2000~2500円程度ですから、保険料として考えるなら安いと思います。
ヒグマの生態を学び適切な対処をして事故を防ごう
当サイトでは以前から釣行時のヒグマ対策についていくつか発信してきましたが、基本的に北海道に生息するヒグマは草食に近い雑食性で、肉食ではありません。
普段ヒグマは山菜や木の実などの植物を好んで食べていて、積極的に他の動物を襲って食べることはなく、動物性のものは昆虫などを良く食べています。その他、産卵のために川に遡上する鮭や鱒を捕まえたり、例外的に越冬に失敗して命を落とした鹿の死肉を食べています。
また、北海道では家畜用の飼料として栽培されているデントコーンも、夏から秋にかけてヒグマにとって重要な餌となっている地域があり、秋の収穫までの間のヒグマの格好の栄養源になっているのですが、実はこのデントコーンは昔からヒグマとヒトとの奪い合いが起こってきたという背景があります。
ところが、デントコーンごときにヒグマ対策などのコストを掛ける価値がない中で、バイオエタノールの原料として道が栽培を推進してきた昨今、デントコーンの作付面積が増加したこともあり、より農業地帯にヒグマを近づける要因となっていることも指摘されています。
ニュースでも話題になっている標茶町のOSO18に関しては、特別凶暴なクマであると各メディアが視聴者を煽る記事を書いていますが、このOSO18は異常な個体ではなく北海道に生息する普通のヒグマに過ぎません。
確かにOSO18は大型の個体ではありますが、北海道では過去にえりも町で500㎏クラスのヒグマが捕獲されていることもあり、このOSO18が特別大きくて凶暴性の高い危険なヒグマとは言えず、危険を冒して野生の鹿などを捕獲しなくても栄養価の高い農家の牛を食べることができるということを学習しただけに過ぎず、行動はかなり大胆ですが、学習能力の高い非常に賢いヒグマというだけです。
今後、このような知能の高い大型のヒグマが増えてくると、確かに大きな問題となってくるでしょう。
しかし、現時点で農家と自治体などが協力して予防策を講じることで防ぐことはできますし、同じように釣りに関しても予防こそが最大の防御なので、最大限の予防策を講じた上で遭遇を避け、それでも遭遇してしまった場合の対策としてクマ撃退スプレーを所持して渓流釣りを楽しんでもらえたら良いと思います。
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